植物は、受精卵からだけでなく分化した細胞からも脱分化を経て完全な個体を形成するが、その遺伝的制御機構は分子レベルではほとんど明らかにされていない。本研究の目的は、イネをモデルとして植物の初期胚発生を制御する遺伝的ネットワークを明らかにすることである。 イネ初期胚でのホメオボックス遺伝子の発現パターンをRT-PCRにより調べた。その結果、HOS13は球状胚の受精1日目に最も強く発現し、器官形成が見られる4日目以降は発現がほとんど見られなくなった。HOS16とHOS24は器官形成直前に強く発現した。HOS3、HOS9、HAZ1は受精1日から5日までの間、常に似たレベルの発現が見られた。さらにHAZ1の発現をin situハイブリダイゼーションにより調べた結果、受精3日目、4日目では胚の最外層で強く、内部で弱く発現しており、受精5日目では胚の腹側で発現していた。以上の結果から、イネ初期胚発生過程では多くのホメオボックス遺伝子が様々なパターンで発現していることが分かった。特にHOS13は球状胚で強く発現していたが、器官分化が見られる時期には発現が見られなくなり、逆にHOS24はHOS13の発現と相反するように器官形成が見られる直前から発現が見られた。 このような特徴的な発現パターンを示したHOS13及びHOS24の発現調節機構を明らかにするため、それらのプロモーター領域をクローニングし塩基配列を決定した。その結果、HOS13の上流域には酵母のMat al/α2の結合配列、HOS24にはMat al/α2とイネのホメオドメインタンパク質 Oshox1 の結合配列が見られた。現在、これらの特徴的な配列の役割等を明らかにするため、これらのプロモーターにGUS遺伝子を連結したキメラ遺伝子を作成し、形質転換イネを作成中である。また、これらの遺伝子を過剰発現する形質転換イネも作成中である。
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