研究概要 |
生殖細胞分化についてヒトY染色体のゲノム構造解析からのアプローチを試みてきた。Y染色体の構造異常と症状の検討・YACを使ったゲノム解析などからY染色体上の遺伝子のマッピング・クローン化を行ってきたが,このような研究の中で以下のように考えるようになった。まず第一に,ヒトのY染色体上の精子形成に関与する遺伝子は機能としては新しい由来のものであり,他の生物のY上の遺伝子と相同性は無い。第二に,性腺分化に関与する遺伝子は基本的に同じものが働いていると思われるが,働く時期や順が相当変化しているであろう。この両者について,ヒトを材料に研究を進めている。 前者については,Y染色体上に無精子症の候補遺伝子としてRBM,DAZが既にクローン化されているが,これらの遺伝子の点突然変異例など見出されていないことから,より重要な遺伝子の存在を考え,無精子症領域をより詳しく探索する。この領域については,YAC,コスミド経由のpositional cloningを目指してきたところであるが,反復配列の存在など解析に非常に不利な領域であることが分かってきた。しかし,fiberFISH法などを用いてコスミドのオーバーラップをチェックするなどして,正確なコスミドコンティグを作製し,欠失患者における切断点の同定を目指している。現在までに収集した無精子症検体は200例近くあり,その10%程度でY染色体長腕の数Mbの微小欠失がみられた。残りの検体でより微小な欠失の有無を検索するとともに,欠失例では欠失の切断点のクローン化とそのメカニズムの解明を目指す。 後者について,ヒトの性分化の時期に性特異的に発現している遺伝子を明らかにするために,人工流産した5〜7週の男女胎芽を材料にDifferential Display法を用いて解析している。現在までに一見男女差を示す37のバンドを得,これらをクローン化した。
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