研究概要 |
我々が単離したショウジョウバエのGp99の突然変異は卵割期に核分裂後期の染色体分配異常を示した。Gp99突然変異の表現型が、MAPキナーゼシグナル伝達系の活性型突然変異(Dsor1,Dsor3)により抑圧され、G2サイクリン(cyclinA,cyclinB)の機能欠損突然変異により優性に増強される。このことからGp99はMAPキナーゼシグナル伝達系とG2サイクリンを結びつける染色体分配の制御因子だと解釈された。しかし、クローニングしたその遺伝子が新種の蛋白質をコードしてたことから、その生化学的な作用機構は不明である。当初単離したGp99対立遺伝子(allele)はトランスポゾンが非翻訳領域に挿入された機能減少型の突然変異であり、細胞周期におけるGp99遺伝子の機能を正確に把握するためには機能完全欠損型の突然変異の解析が不可欠であった。しかし、新たに単離された2つのGp99機能完全欠損型の突然変異は細胞致死性(cell.lethality)を示し、多細胞生物であるショウジョウバエの表現型の解析は困難であった。そこで単細胞生物である出芽酵母においてGp99とアミノ酸配列の相同性がある遺伝子を解析することを試みた。出芽酵母のGp99類似遺伝子は4種類あり(仮称SC-1,2,3,4)、相同性は約150アミノ酸の領域に限定され、それらの遺伝子機能は判明していなかった。ショウジョウバエGp99との相同性が一番高く、150アミノ酸の相同領域で40%のアミノ酸の一致を示すSC-1遺伝子を破壊し出芽形成が開始される前のG1期で細胞周期が停止していることが判った。このことから出芽酵母SC-1遺伝子は細胞周期制御に働くという点でショウジョウバエGp99遺伝子と機能が進化的に保存されていることが判明した。次に、SC-2、SC-3のそれぞれの遺伝子を破壊したところ、それらが必須遺伝子でないことが判明した。さらに、SC-4遺伝子を破壊したところ、増殖に遅れがありながら、生存には必須ではないことが判明した。しかし、作出した2倍体株では胞子形成が起こらず、DAPIでDNA染色した結果から胞子形成が第一減数分裂以前の分化段階で停止していることが判り、SC-4遺伝子が減数分裂の細胞周期制御に関与していることが示唆された。
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