研究概要 |
大腸菌を主な宿主として複製するミニFは染色体あたり1〜2コピーで安定に維持され、又、細胞周期の特定の時期に複製することも知られている。この厳密な調節を担うものは複製開始蛋白質(RepE)とincC領域、さらに未知の負の調節因子等である。ミニFのrepE遺伝子の下流にあるincC領域はori2内のイテロンとほぼ同じ塩基配列を持つイテロンが5個存在する。この領域のイテロン内の変異及び欠失によりミニFのコピー数が増加することは古くから知られていたが私達も確認した。又この領域を持つマルチコピープラスミドとミニFは共存出来ない(Incompatibilityを示す)。IncC領域はミニF ori2に対してcis位置、trans位置にある場合にかかわらず、ミニFのDNA複製、多分、DNA複製開始を阻害する。つまりこの領域はDNA複製の負の制御に重要な役割を担っている。これらの阻害機構の詳細は現在明らかにされていない。私達はこれらの機構を明らかにするためにincC領域にPCR法によって変異を導入し、Incompatibilityを示さなくなった変異IncCを多数分離し、それらの変異位置を決定した(研究計画の1)。変異イテロン及び変異IncC領域のゲルシフトアセイによりRepEが結合出来るかどうかを調べた(研究計画の2)。in vivoでの細胞内RepE濃度の増加によるミニFのコピー数変動を調べた(研究計画の4)。研究計画になかったが野性型ミ二FのIncC領域を変異IncC領域と簡単に置き換えられるミニFの構築を行い、それらのコピー数を測定した。これらの結果からIncCによるミニF複製阻害にはRepE-イテロン複合体の形成が必要であるが充分でなく、ori2-RepE,incC-RepE間の相互作用が重要である事が推定された。つまり、ミニFのコピー数調節機構はTitration Modelでは説明できないことがわかった。現在、P1,PK2,R6Kの複製調節機構に関してHand Cuffing Modelが提唱されているが、Fの場合に適応できるかどうか、また新しいモデルの可能性も含めて、解析を進めている。これと関連して電子顕微鏡を用いて直接IncC領域イテロン-RepEとRepE一ori2イテロンとの結合を観察する試みから予備的な結果であるが、ループ構造が見られた(上智大 廣川先生との共同研究)。Fの系での成果はF類似プラスミドだけでなく、類似構造の枯草菌等の細菌のDNA複製開始制御機構の理解に役立であろうと考えている。
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