研究概要 |
本研究助成により我々が長く取り組んできたヒスタミン神経系の機能研究をヒトボランティアにて行った。まず(1)[^<11>C]ドキセピンを用いてH1受容体占拠率を測定し、眠気発生や認知能力低下にどれだけのH1受容体占拠が必要か明らかにすることを試みた。さらに(2)H_2^<15>Oと3D-PETを用いて視覚認知課題遂行時の脳機能イメージングを行い、抗ヒスタミン薬投与による眠気や認知機能低下の発生メカニズムを調べた。主観的な眠気はプラセボ、d-クロルフェニラミン 1mg、2mg投与によりほとんど有意な変化は認められなかった。タキストスコープによる視覚認知課題では、プラセボ群では全く変化がなかったが、1mg投与群において反応時間の延長と正答率の低下が、有意差はみられなかったもののある程度認められ、特に刺激条件が厳しいほど(5,7msecの呈示時間)その傾向は強かった。d-クロルフェニラミン2mg投与時の認知課題試験で提示時間が5msのときにプラシーボとの間で反応潜時の遅延と正答率の低下が有意に認められた。2mgでのH1受容体占拠率は77%であり、1mg投与時のH1受容体占拠率は56%であった。以上のことからヒト脳内H1受容体遮断に伴い認知能力の低下をもたらすと考えられ、有意な認知能力の低下には70%以上のH1助教授が遮断される必要があることが分かった。H_2^<15>Oのよる脳機能の計測では、d-クロルフェニラミン投与により減少しプラセボでは変化しなかった脳の活動部位は、right midbrain,right medial thalamus,left middle temporal gyrus,left inferior frontal gyrusなどであった。抗ヒスタミン薬はこれらの部位におけるH1受容体を介する神経伝達を阻害することにより、眠気や認知能力の低下が起こる可能性を指摘したい。
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