研究概要 |
われわれは,海馬体は,課題要求性に基づき,その課題に必要な情報を能動的に選択し,符号化しているという作業仮説を立てている。昨年度は,課題要求性により,入力情報の特定のパラメータに対するラット海馬体場所ニューロン(動物が特定の場所に居るときに活動が上昇するニューロン)の応答選択性が増加し,より重要な情報に応答性が能動的にシフトしていることを報告した。本年度は,ラット用の特殊小型自動車を開発し,この小型自動車にラットを載せて移動することにより,ラットの動き(歩行運動)を制限した状態でラットの居場所を変化させ(受動的移動),能動的に歩行移動したときの場所応答性と比較・解析した。実験では,1)ラットに,オープンフィールド内で脳内自己刺激(ICSS)を報酬としてランダムに移動する場所探索課題および二つの場所の間を往復する場所移動学習課題を行わせ(能動的移動),海馬体場所ニューロンの活動およびラットが移動した軌跡を記録した。2)ラットを小型自動車に載せた状態で,記録した軌跡に沿って移動させ,同じ場所でICSSを強制的に与えて海馬体場所ニューロンの応答性を解析した。その結果,40個の海馬体ニューロンを記録し,能動および受動移動をテストしたすべての場所ニューロン(n=14)で場所応答性が低下することが明らかになった。さらに,サル用自動車を用いてサルにレバ-押し場所移動課題を訓練し,レバ-押しによる能動移動および実験者が強制的に自動車を移動させる受動移動に対するサル海馬体場所関連ニューロンの応答性を比較・解析した。その結果,テストした22個の場所関連ニューロンのうち19個で場所応答性が同様に低下することが判明した。以上の結果は,能動的な感覚情報処理が海馬体で行われていることを強く示唆し,われわれの仮説を支持するものである。
|