研究概要 |
(1)MTH1遺伝子とその転写産物の構造:我々は、ヒト培養細胞株から調整したMTH1 mRNAの5'末端領域をcDNAとして増幅し、その塩基配列とゲノム遺伝子の塩基配列の比較解析から、ヒトMTH1遺伝子は、5つの主なエクソンからなり、エクソン1が1aと1b、エクソン2が2a、2b、2cの3つのセグメントからなり、これらの択一的スプライシングにより7種類のmRNA(Type 1、2A、2B、3A、3B、4A、4B)をコードすることを明らかにした。Type1 mRNAは、最も発現量が多いMTH1遺伝子の転写物であるが、エクソン2を完全に欠損し、エクソン1aから直接エクソン3へのスプライシングを受けていた。2つのタイプのMTH1 mRNA(Type2A、2B)は、エクソン1aにそれぞれエクソン2bあるいは2b-2cが連結していた。Type3のmRNAはエクソン1bにエクソン2b(Type 3A)、あるいは2b-2c(Type 3B)が連結していた。Type4の2つのmRNAには、エクソン1の配列がなく、それぞれエクソン2a-2b(Type4A)、あるいはエクソン2a-2b-2c(Type4B)から始まっていた。さらに、健常人ボランテイアの末梢血リンパ球と胸腺から調整したMTH1 mRNAの解析からヒト臓器でもこれらの7つのMTH1 mRNAが発現していることを確認した。健常人ボランテイアの一人は、4つのタイプ(Type 1、2B、3B、4B)のMTH1 mRNAのみ発現していたが、その配列とゲノム遺伝子配列の解析から、エクソン2の2b-2c間の5'スプライシング部位(GTGA)の配列が(GCGA)に置換されており、2b-2c間でスプライシングがおこらず、2b-2cが必ず連結したMTH1 mRNAのみが生じることが明らかになった。複数の健常人ボランテイアから樹立したリンパ球細胞株のゲノム配列の解析から、このT→Cの塩基置換は遺伝的多型性の1つであることが明かになり、その存在比は約4:1であった。 (2)MTH1蛋白質の構造と発現:4つのMTH1 mRNA(Type 1、2A、3A、4A)には共通の開始コドン(ATG4)から始まる1つの翻訳フレームが存在し、18kDaのMTH1ポリペプチドをコードすることが予測された。一方、エクソン2b-2cのセグメントが連続して存在する3種類のmRNA(2B、3B、4B)の5'-領域にはin frameで新たな翻訳開始コドンが3つ(ATG1〜3)上流に存在する。エクソン2b-2c間の5'スプライシング部位が(GTGA)の場合、このTGAがin frameのストップコドンとなるため3つの開始コドン(ATG2〜4)が機能することが予測され、(GCGA)の場合、4つの開始コドンが(ATG1〜4)全て機能する可能性が示唆された。また、それぞれのmRNAのin vitro翻訳で対応するポリペプチド(18、19,5、20、22,5kDa)が翻訳されることと、それぞれのATG配列をATCに置換することにより対応する翻訳産物が消失することから、1つのタイプのmRNAから択一的な翻訳開始が起こることが期待された。複数のボランテイアから樹立したリンパ球細胞株のウエスタンブロッテイングの解析から、エクソン2b-2c間の5'スプライシング部位の遺伝的多型性に一致して3つのあるいは4つのMTH1ポリペプチドが検出された。
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