研究概要 |
私達は昨年バキュロウイルス系で発現したhMSH3を含むヘテロ二量体(hMSH2/hMSH3)がループを持つミスマッチに選択的に結合することを示した(Curr.Biol.,6:1181-1184,1996)。塩基置換ミスマッチに結合するヘテロ二量体(hMSH2/hMSH6)がhMutSαとすでに名付けられていることから、この二量体をhMutSβと命名した。3種のMutSホモログ(hMSH2,hMSH6,hMSH3)から成る2種のヘテロ二量体(hMutSα,hMutSβ)によるミスマッチ結合モデルは真核生物における共通の分子機構と考えられている。 本年は2種のヘテロ二量体(hMutSα,hMutSβ)がヒト細胞抽出液に存在することをゲルシフト法で確かめた。さらに3種のMutSホモログの細胞における発現量をNorthern blotにより比べると、hMSH2:hMSH6:hMSH3=1:0.6:0.2であった。hMSH3遺伝子が約100倍に増幅しているメソトレキセート(MTX)耐性細胞ではhMSH2:hMSH6:hMSH3=1:0.6:15.6であり、ヘテロ二量体の形成がhMutSβに片寄っていることが予想された。実際MTX耐性細胞ではゲルシフト法を行うとhMutSαの複合体の形成が抑えられており、塩基置換ミスマッチであるG/Gミスマッチの修復活性が低下していることが観察された。次にhMSH3の発癌への関与を変異解析により検討した。79例の孤発性大腸癌患者のゲノム不安定性を5箇所のマイクロサテライトを用いて検討すると5例が不安定性を示し、それらはTGF-βRIIのAリピートの欠失変異あるいは塩基置換変異を伴っていた。そのうちの1例においてはhMSH3の(A)8部位でのAの挿入と欠失が認められた。これらのことより、ゲノム不安定性を呈する弧発性大腸癌の一部は、ゲノム不安定性の結果TGF-βRIIの不活化に至ったと考えられ、不安定性の増強にhMSH3遺伝子の変異が寄与したと推測された。
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