特異性の高い分子標的を持った新しいマラリア治療法の可能性の一つとして、染色体テロメアの複製機構に注目する。マラリア原虫Plasmodiumは原生生物に属し、半数体世代においてシゾゴニ-と呼ばれる特異な多分裂を繰り返す。この間に溶血、発熱をはじめとする臨床症状が現れるので、この時期に特異なDNA複製機構を阻害し原虫を殺すことを試みる。一般に、活発な増殖を行っている真核生物は、染色体末端テロメア領域が完全に複製されるために、テロメレースと呼ばれる酵素活性が必要である。この酵素は、ヒト体細胞をはじめとして多細胞生物を構成する細胞では活性が非常に弱い一方、PlasmodiumやTetrahymenaのような単細胞性生物では非常に高い。従って、テロメレースを特異的に阻止する薬剤により、Plasmodiumのシゾゴニ-を阻害できると期待できる。今年度の本研究では、PCRによりマラリア原虫テロメレース触媒サブユニット遺伝子をクローニングすることを試みた。既に述べた既知の逆転写酵素あるいはテロメレース触媒サブユニット遺伝子の間で保存されているアミノ酸配列から、PCR用のdegenerative primerを設計した。この際、マラリア原虫ゲノムが高いATコンテントをもつことを考えあわせ、マラリアコドン使用頻度表によりできるだけ単純な配列となるようにした。また、マラリアゲノムDNAあるいはcDNAを鋳型としてPCRを行う際に、AT-richな配列のためにPCRのプライミングがうまく行かない可能性が前回の班会議において指摘されたので、プライマーの5'末端にGCコンテントの比較的高い関係のない17ntの配列を加えることで、PCR反応が進むように工夫した。これまでに、Plasmodium falciparumのゲノムDNA(阪大微研、堀井敏宏 先生より供与)を鋳型に用いて、得られたPCR産物49種類をクローニングの上塩基配列を決定した。そのうち、一つのPCR産物は、哺乳瓶類で見られるレトロトランスポゾンL1のコードする逆転写酵素と有意な相同性を示し、本法が基本的には目的通り機能していることを示した。
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