研究概要 |
マラリア原虫とほ乳類細胞との間に有為な選択毒性を有する新しいマラリア治療薬の創製を目的として,既存の抗マラリア剤とは異なった基本骨格を持つ化合物の抗マラリア作用とその作用機構を明らかにすることにより,マラリア制圧に真に有効な薬剤開発のためのリ-ド化合物の創製を目指し本研究を行った。葉酸合成系阻害剤ピリメサミンは,ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に特異的に結合し基質と競合的に結合することによって酵素活性を阻害するという,作用機構の明らかな抗マラリア薬の一つである。従って,DHFRの阻害は抗マラリア薬開発のための一つの分子標的と考えられる。我々は,新規葉酸代謝拮抗剤の創製を目的として,葉酸のプテロイン酸を構成するプテリジン骨格の代わりにピラゾロピラジン(1H-pyrazolo[3,4-b]pyrazine)環を基本骨格にもつ種々の化合物を合成し,ヒト由来のKB細胞と熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium talciparum)との間の選択毒性を検討した。今回合成した化合物のうち,基本骨格のピラゾロピラジン環の5-位の置換体の中に高い選択毒性を示す化合物が見いだされた。特に,5-位にクロロ基を有する化合物は50倍の,また5-位にp-ブロモフェニル基を有する化合物は240倍の選択毒性を示した。ピラゾロピラジン環を基本骨格にもつ化合物の生体での役割は不明な点が多いが,ピラゾロピラジン誘導体は選択的抗マラリア剤のリ-ド化合物となることが示唆された。
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