研究概要 |
前年度までの研究から、多能性と自己複製能を持った造血幹細胞(Lin^-,c-Kit^+,Sca-1^+,CD34^-)と自己複製能を持たない前駆細胞群(Lin^-,c-Kit^+,Sca-1^+,CD34^+)とを完全に分離することが可能となっている。本年度は、FACSの検出器を増設してパラメーターを1つ増やすことにより、前駆細胞分画(以下CD34^+分画)をさらに分画する細胞表面マーカーの検索を行った。 様々なモノクローナル抗体のスクリーニングをおこなった結果、ムコ多糖タンパクL-selectin(Mel-14)に対する抗体を用いると、造血幹細胞分画であるCD34^-細胞はMel-14陰性、前駆細胞分画であるCD34^+分画は約50%がMel-14陽性で、残りがMel-14陰性であることが判明した。5カラーFACS解析の結果、Lin^-,c-Kit^+,Sca-1^+細胞群中にはCA34^-Mel-14^-、CD34^+Mel-14^+、CD34^+Mel-14^-という3つの分画か存在していた。それぞれの分画をセルソーターにより分離し、その分化増殖能についてin vivo、in vitro両面からの検討を行った。 致死量放射線照射マウスに移植した実験では、移植後10日目の骨髄でCD34^-Mel-14^-はB細胞および骨髄球系細胞の両方に分化していたのに対し、CD34^+Mel-14^+を移植したマウスではB細胞のみが、CD34^+Mel-14^-では骨髄球系細胞のみへの分化が観察された。移植後3週後の胸腺では全分画ともT細胞への分化が観察されたが、CD34^-Mel-14^-移植マウスでは分化がCD4&8共陽性までしか達していないのに対し、CD34^+Mel-14^+移植マウスではCD4/CD8単陽性まで分化が進行していた。移植8週後の骨髄では、CD34^-Mel-14^-細胞移植マウスでのみドナー由来細胞による造血が維持され、他の2つの分画の細胞はドナー由来細胞による造血が見られなかった。 IL-3,SCF存在下でおこなったIn vitroコロニーアッセイでは、いずれの分画の細胞も約60%の比率でコロニーを形成し、形成コロニーはCD34^-Mel-14^-では芽球様細胞、Cd34^+Mel-14^-では骨髄球系コロニーが優勢であった。また、in vivoでは骨髄球系細胞への分化が観察されなかったCD34^+Mel-14^+でも骨髄球系コロニーが形成されたが、他の分画とは異なりディッシュに付着し樹枝状の突起をもつ樹状細胞が優勢であった。 以上の結果から、マウス骨髄中に存在する造血幹細胞はLin^-,c-Kit^+,Sca-1^+,CD34^-,Mel-14^-という表現型を持ち、長期的な骨髄再構築能を持つこと、Lin^-,c-Kit^+,Sca-1^+,CD34^+は長期骨髄再構築能を持たずMel-14(L-selectin)の発現により、リンパ球系前駆細胞と骨髄球系前駆細胞に分画されることなどが明らかとなった。
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