研究概要 |
ショウジョウバエは、高等動物脳の初期形成過程の解析にとって優れたモデル系を提供している。我々はこれまでに、ショウジョウバエの脳が分節遺伝engrailedによって区画される3つの独立した神経節より構成されることを明らかにし、さらに、これら脳分節の形成に、進化上保存されたotd遺伝子とems遺伝子の活性が必須である事を示してきた。今年度はこれらの結果にもとづき以下の解析を行った。1.otd/Otx遺伝子の機能的保存性の解析:ヒトOtx1遺伝子とOtx2遺伝子をショウジョウバエに導入し、さまざまな発生段階で熱誘導プロモーターにより強制発現させた。これにより、ヒトOtx1/Otx2遺伝子がショウジョウバエotd変異株の脳・頭部形成異常を救助することを見い出した。2.他の発生制御遺伝子の解析:otd/ems遺伝子に加えて、ショウジョウバエ脳で発現され、脊椎動物脳形成とも共通する一群の制御遺伝子(Distal-less/Dlx,extra-denticle/Pbx,D-goosecoid/Gsc,eyeless/Pax6,wingless/Wnt,probosipedia/hoxb2,labial/hoxb1)の発現パターンと突然変異体の解析を行った。3.脳高次構造の初期形成機構の解析:ショウジョウバエ脳における学習・記憶等の高次神経活動の拠点であるキノコ体に着目し、その初期形成機構を特異的エハンサートラップ系統を用いて解析した。その結果、(1)キノコ体胚構造がb1脳分節の最も先端部に存在する4個の神経芽細胞から形成されること、(2)胚発生後期においてキノコ体細胞群は遺伝子発現の差異を示す2種のグループに分化すると共に、それらから伸びる神経軸策がキノコ体構造の基幹を開拓することを明らかにした。
|