研究概要 |
本研究では、ニワトリの頚髄前角で孵卵4日から5日にかけて起こる神経細胞死において死ぬべき細胞がどのようにして決定されるのか、また、細胞死の実行機序としてはどのような分子メカニズムが働いているのかを明らかにすることを目的とし、(1)生き残る細胞と死ぬ細胞とを分ける何らかの分子マーカーはないか検索する(2)細胞死関連分子の影響を調べるの2点について研究を行なった。 (1)trkA,trkB,trkCおよびp75に対する免疫組織化学を細胞死の起こる直前の時期(孵卵3.5-4日)に行なった。GDNFのレセプタであるretについては、ジゴキシゲニン標識のRNAプローブを作製しin situ hybridizationを行なった。これらの結果、trkA,trkB,trkCについてはいずれも細胞死の開始時期直前には特異的な発現は見られなかった。低親和性NGFレセプター(p75)とretは前角全域に強い陽性反応が見られたが、各細胞間に大きな違いは見られなかった。p75の強い発現が見られたことからp75やNGFの機能阻害抗体を投与して細胞死への影響を検討したが、有意の影響は見られなかった。このほか、検索の結果、c-JUNがこの頚髄の細胞死の極早期のマーカーとしてTUNEL反応より優れていることが明らかとなり、今後の応用が期待される。(2)細胞死抑制機能をもつBcl-2をアデノウイルスベクタを用いて強制発現させた。孵卵3.5日の頚髄腹側にウイルス液を注入し、4.5日に固定したところ、注入部位に遺伝子発現が認められた。しかしながら、発現の割合は3-40%程度にとどまり、定量的な作用の評価はできなかった。またIL-1β変換酵素(ICE)ファミリー(カスパーゼ)の関与を調べるため、細胞死が起きている部位を実体顕微鏡下に切り出して蛋白を抽出し、各カスパーゼに特異的な基質の分解量をはかることにより酵素の活性を測定した。この結果、DEVDを特異的に分解するカスパーゼ3様の活性が部位特異的、時期特異的に頚髄前角領域で上昇していることが明らかとなった。現在、外植体培養の系で各カスパーゼ阻害剤の影響を調べている。
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