研究概要 |
自己免疫疾患である多発性硬化症や実験的アレルギー脳炎(EAE)は中枢のオリゴデンドロサイトが選択的に障害される疾患であるが、そのメディエーターの一つとして細胞障害性のサイトカインTNFがあげられている。オリゴデンドロサイトはTNFに感受性の高い細胞であり、マウス脳より分離培養したグリア細胞にTNFを投与すると選択的にオリゴデンドロサイトが細胞死をおこす。グリア細胞をアストロサイトとオリゴデンドロサイトに分離してカスパーゼの発現をみると、アストロサイトではCASP-1,CASP-3が、オリゴデンドロサイトはCASP-1,CASP-2,CASP-3を発現していた。TNFによるオリゴデンドロサイトの細胞死へのカスパーゼの関与を調べる目的で初代培養系にカスパーゼ阻害剤を投与してその効果を検討した。カスパーゼの一般的な阻害剤Z-Asp-CH_2-DCBの特異性を各種カスパーゼの一過性発現の系でHeLa細胞を用いて調べると、バキュロウイルスのp35遺伝子(カスパーゼファミリーの多くを競合阻害する)と同様に多くのカスパーゼを介した細胞死を抑えることが明らかになった。そこでZ-Asp-CH_2-DCBをTNFと同時にオリゴデンドロサイトの培養に添加すると非常に効率よく細胞死を抑制した。また、ICEに特異性の高いAc-YVAD-CHO,CPP32に特異性の高いAc-DEVD-CHOも細胞死抑制効果を示した。これらの結果から、TNFによるオリゴデンドロサイト細胞死にカスパーゼが関与することが示され、カスパーゼの阻害は多発性硬化症の治療に有効である可能性を示唆された。
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