研究概要 |
最近、一生の造血を支持する造血幹細胞は胎生初期にaorta-gonad-mesonephros(AGM)領域で発生、増幅し、胎児肝さらに骨髄へ移動するとする考えが有力となってきた。AGM領域は造血組織ではなく、ここでは造血幹細胞が発生し、著明に増殖するものの分化を伴わないことから、造血幹細胞の自己複製因子が存在するとすればこのAGM領域でもっとも強く発現している可能性が考えられる。本研究では、このような発想のもとに、AGM領域から造血幹細胞の自己複製因子のクローニングを目的として、胎生10.5日のマウス胚からAGM領域を採取し、これをin vitroで長期に培養を続けることにより、造血幹細胞の増殖を支持するストローマ細胞株の樹立を試みた。最近、ついに3つのストローマ細胞株(AGMS1,AGM-S2,AGMS3)の樹立に成功した。AGM領域からストローマ細胞株の樹立に成功したのは我々が世界で最初である。このストローマ細胞上にマウス骨髄より分離した造血幹細胞分画、lin-Sca-1+c-Kit+細胞を重層し培養すると、AGMS1,AGMS3上で混合コロニー形成細胞、day12CFU-Sの著明な増幅が得られた。さらにこのストローマ細胞株が種を越えてヒト造血幹細胞の増殖を支持する能力があるか否か検討した。ヒト臍帯血由来のCD34+CD38-細胞をAGMS3の上で培養すると、6週間以上の長期にわたって混合コロニー形成細胞など未分化なヒト造血前駆細胞が大量に産生され続けることから、このストローマ細胞上でヒト造血幹細胞の増幅が起こっていると考えられる。また、このストローマ細胞上で培養したヒトCD34+細胞を移植したNOD/SCIDマウスの方が、培養する前の細胞を移植したマウスよりもヒト細胞が多く検出できることが明らかになりつつあり、少なくともAGM-S3は4週以上の長期にわたってSRCの増幅、維持に作用していることが明らかとなった。サイトカインmRNAの検討では、SCF,OSM,IL-6,M-CSF,EPO,MIP-1αは検出されるものの、これらの組み合わせではヒト未分化造血前駆細胞の増殖は起こらないことから、種を越えて働く未知の分子の存在が示唆される。現在、このストローマ細胞よりcDNAライブラリーを作製し、発現クローニング法などを用いて造血幹細胞の自己複製因子をクローニングをみている。
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