研究概要 |
重度脳障害事例は行動観察上では「反応がない」とされてきた.これらの対象の注意や認知機能を評価する上で,生理心理学的指標が有効である.本研究では,心拍指標のモニタリングシステムを開発し,これによる心拍反応の評価を重度脳障害事例への援助に活用することを目的とした. 心拍反応には注意レベルとの関連で二つの相がある.ひとつは心拍動の速さにおける一過性変化であり,他は持続的な変動(呼吸性心拍変動;RSA)である. これらの指標を援助過程における注意の評価に用いるためには,心拍反応の即時検出が必要である.そこで,ECGの無線送信と心拍反応の即時検出システムを開発した.まず,ECGのR波パルスを,受信器からパーソナルコンピュータへ送る.コンピュータへは分析目的に応じた環境変化(刺激作用)信号も入力され,これとの関連でR-R時間情報を処理し,心拍反応を即時に検出して,それを音信号によって伝達する.RSAは,1区画20秒間の心拍を最大エントロピー法によってスペクトル変換し,継次的に表示する. 本研究において開発した心拍指標のモニタリングシステムを用いることにより,注意プロセスを把握しうることが明らかになった.また,実践的導入の結果,拍反応の即時検出・評価によって,「反応がない」とされてきた重度脳章害事例の外的環境に対する注意プロセスを評価できることが確認された.本システムは重度脳障害事例と援助者との対人関係(コミュニケーション)形成に有用であるといえる.
|