研究概要 |
グラファイト表面に物理吸着したヘリウム3(^3He)薄膜の単原子層について,90μKまでの熱容量(C)測定を行い,その2次元核磁性について以下の知見を得た.(1)吸着2層目の低密度領域の反強磁性相が低温で比熱のダブルピーク構造をもつことを初めて明らかにし,その基底状態が多体交換相互作用の競合と三角格子の幾何学的フラストレーションのために絶対零度でも長距離秩序をもたない量子スピン液体状態であることを提唱した.(2)2層目の密度が増加すると,比熱はシングルピークとなり,単純な2次元ハイゼンベルグ強磁性体に移行してゆく.これは高密度の極限で3体交換が支配的になることを示している.(3)低密度のサブモノレ-ヤ-固相の熱容量は,広い温度範囲でC∝1/Tの奇妙な温度依存性をもつ.これは2層目の反強磁性相の高温域の振舞いと酷似しており,低密度整合固相に共通のメカニズム(例えば空格子点の周りのスピンポーラロンなど)に依る可能性もある. 2次元固体^3Heの模型として多体交換相互作用を含む三角格子上のスピン系の理論的研究を行い,以下の成果を得た.(ア)5千個のスピンを含む古典系についてモンテカルロ計算を行ない,4体相互作用の強い系では有限温度でスカラーカイラル秩序を持つ相への相転移が起ることを示した.また相転移近傍の臨界指数を調べた.(イ)分子場近似によって得られた基底状態への量子揺らぎの効果をスピン波近似を用いて計算し、カイラル秩序相が揺らぎに対して安定であることを示した.(ウ)S=1/2の少数スピン系に対して数値対角化および量子モンテカルロ法による基底状態および有限温度の計算を行った. グラファイト表面に物理吸着した^4He,Krのサブモノレ-ヤ-整合固相の原子像を超低温走査トンネル顕微鏡で観測することに成功した.また,^4Heナノ結晶の融解現象(T〜2K)も観測した.希ガス原子像がSTM観測できるメカニズムとして,グラファイト表面のミクロな弾性変形が重要な役割を果たしているとする仮説を提唱した.
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