研究概要 |
本研究は,高誘電率材料として最近注目されている強誘電体におけるサイズ効果に関して行われたものである.応用上の要求から,膜の厚さは最近では数十nm以下となり,さらに膜を構成する微粒子の大きさは数nm以下となる可能性もある.強誘電体薄膜の厚さや,微粒子の粒径がこのサイズになると誘電特性がサイズに依存することが知られている.しかし,このようなサイズ効果発現のミクロな機構はまだ解明されておらず,応用面からもその早急な解明が待たれている.本研究では,特にペロブスカイト型強誘電体の相転移温度に対するサイズ効果に注目し,その発現機構を解明すること及びサイズ効果を電子材料の物性設計に役立てるための技術を開発することを目的として行われた.得られた成果の第一はサイズ効果発現機構に関するものである;サイズ効果を説明するためGinzburg-Landauに始まる現象論的な取り扱いに表面の効果を考慮したモデルがこれまでに何人かの研究者によって提案され,ある程度定量的に説明することに成功している.このモデルでは,表面近傍において電気分極が局所的に変化し,それがサイズ効果を引き起こしているとする.われわれは,表面における格子緩和によってこの変化を説明することを提案した.成果の第二は,強誘電体薄膜の低温成長技術に関するものである;サイズ効果を積極的に材料特性の改善に応用できる可能性がある.しかしそのためには薄膜を構成する微粒子の粒径を臨界粒径である数ナノメータに近づける必要がある.粒径の増加を抑えながら結晶化を進めるためには,できるだけ低い温度で膜の焼成を行うことが要求される.われわれは基板と薄膜の間にシード層を導入することによってそれを実現することを試みた.その結果,PZT薄膜の場合,基板上にチタン酸鉛の薄い層を挿入することによって450℃という低い温度で高品質の結晶化薄膜を得ることができた.
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