研究概要 |
電気自動車には,従来のガソリン自動車にはなかった大きな可能性を見いだすことができる。一つは,電気モータの高度な制御性をいかした増粘着制御(トラクション制御)であり,いま一つは複数輪独立駆動による車両姿勢制御である。これらの可能性のもたらす新たな自由度は,人間操縦系として望ましい特性をもった車両,すなわちより操縦しやすい安全で快適な車の実現につながる。 本研究では,この2点を実証するべく,実際の電気自動車の製作を行い,下記の研究を行った。 (1) 電気モータの高速トルク応答を生かした制御 EV(電気自動車)がICV(内燃機関自動車)と大きく異なる点は,当然であるが,EVは電気モータで動くということである。電気モータの最大の特長は,トルク応答がエンジンの2ケタていど速いことである。エンジンが100msならモータは1msである。 定常的な速度・トルク特性や効率マップだけで比較すると,EVの勝ち目はほとんどないが,過渡特性を論じれば大きな差が生じる。速いトルク応答はフィードバック制御を可能する。これによって増粘着制御に成功すれば,ロスが半分のタイヤ用いて一充電走行距離は一気に倍となる。 具体的には,モデル追従制御,路面状態を実時間で推定し常に最適スリップ率を保つ手法などを開発した。これにより,横方向のグリップ力など基本走行性能を保ったまま,低転がり抵抗タイヤの使用によって一充電走行距離の大幅な伸長が期待できる。従来タイヤを用いれば,安全性の高い操作性に優れた車両となる。 (2) 複数輪独立駆動による車体姿勢制御 電気モータは分散配置してもコスト高にならない。4輪独立駆動にすればヨーレートそのものを制御入力とする新しい制御系が組める。4輪独立駆動は,ステアリングによって横方向の力を発生せざるをえない,従来の4WDや4WSとは本質的に異なる。 2輪〜4輪独立駆動車であることを生かせば,ガソリン車にはできない高度な制御,すなわち,2次元の運動を考えたヨーレートやすべり角の制御を行う車体姿勢制御が可能である。本研究では,モデルマッチング制御のロバスト化という手法を提案した。さらに,4輪独立駆動車においては,動的駆動力配分制御という手法が可能である。横力を時々刻々推定しながら,横力の小さいタイヤに大きな制駆動力を動的に分担することにより,タイヤの発生力を均一化して低μ路走行時の安定性確保をもくろむ手法である。 研究を通じて,電気自動車の制御とは,まさに電気・機械複合系のモーションコントロールであることを示すことができたと考えている。
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