研究概要 |
光学認識部位をもつタンパク質であるアルブミンをリガンドとしてビーズに固定し,さらにそのビーズをカラムに充填して,キラル化合物(イブプロフェン,ワルファリンなどの医薬品)をクロマト分離することができる.ビーズ充填カラムには欠点がある.キラル化合物のビーズ内部のリガンドまでの移動が,濃度差によって生じる拡散で起こるため,液を高速でカラムに流すとそれだけ内部へ拡散するひまがなくなり,リガンドは十分に利用されず不利である.それならばということでビーズの径を小さくすると,拡散に要する時間は短縮されるけれども,こんどは液をカラムに流すために高い圧力が必要になる.このジレンマを解消するために,ビーズでなく多孔性中空糸膜を使うことが有効である.厚さ1mm程の多孔性中空糸膜(平均孔径0.3μm,孔の体積分率70%)の内部孔に沿ってBSAを固定する.そこへ液を透過させてリガンド近くまで流れに乗せてキラル化合物を運ぶことを考える.こうすると,ビーズのときの拡散律速の問題は解決される.しかも,膜厚が小さいので低圧(0.2MPa程度)での分離操作が可能である.さらに,タンパク質を孔表面に多層に積み重ねれば,その分,キラル分離能がよくなると考えた.作成した膜の内面から外面へ液を透過させた.BSAを吸着させたときと同一の緩衝液を移動相として用いて,DL-トリプトファン(Trp)を注入した.得られたクロマトグラムから分離係数(D-Trpに対するL-Trpの保持時間の比)を算出した.BSAの積層教が多くなるほど,分離係数が大きくなった.例えば,BSAが4層積み重なると分離係数は6.6となり完全分離を実現できた.さらに,多孔性膜を用いたことによって,リガンドヘのTrpの拡散移動抵抗を無視できるので,移動相の流量を変えても分離係数は変化しないという利点が実証された.
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