研究概要 |
不斉触媒を用いて有用反応の立体制御を行う手法の確立は、21世紀の合成有機化学の中心的研究課題である。本研究では、従来の不斉触媒には見られない新規構造要素をもつ、ジベンゾフランの4,6位に2つのオキサゾリン基を配置させたビスオキサゾリン型不斉3座トランス配位型の中性配位子、DBFOX/Ph,の創製研究を展開し、以下に示す多数の顕著な成果を得た。 1) DBFOX/Ph配位子は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの第1遷移金属過塩素酸塩6水和物と安定な6配位のアクア錯体を形成し、これらは優れたルイス酸触媒活性を示す。 2) ニッケルのアコ錯体は、空気中、湿気雰囲気下においても安定に保存でき、しかも、保存中の触媒活性の低下は見られない。 3) ニッケル錯体触媒は、シクロペンタジエンと3-アクリロイル-2-オキサゾリジノンを用いるDiels-Alder反応において、ほぼ完全なエンド選択性およびエナンチオ選択性を示す。 4) アコ錯体は無水錯体との同程度あるいは多少高い触媒活性とエナンチオ選択性を示す。 5) ニッケルおよび亜鉛錯体は、極めて顕著な不斉増幅作用を示す。 6) 不斉増幅作用発現機構としては、触媒調整時に触媒活性のないメゾ2:1錯体が生成して沈殿すること、および、ヘテロキラルな1:1錯体同士の会合状態がホモキラルな1:1錯体同士の会合状態よりも安定であることに基づいている。 7) 1:1錯体同士の会合を引き起こす引力相互作用は、アコ配位子と過塩素酸イオンとの間の水素結合によって生じている。 8) ニッケル錯体は、水、アルコール、カルボン酸、アミンなどの活性水素をもつ添加剤の存在下でも高い触媒活性を維持できる。 9) ニッケル、亜鉛錯体は、ニトロンと3-クロトノイル-2-オキサゾリジノンを用いる1,3-双極性環状付加反応における優れた触媒として働き、ほぼ完全な立体選択性とエナンチオ選択性を示す。 10) ニッケル、亜鉛錯体は、ジアゾ化合物と3-クロトノイル-2-オキサゾリジノンを用いる1,3-双極性環状付加反応における優れた触媒として働き、ほぼ完全なエナンチオ選択性を示す。オキサゾリジノンの4位に2つのメチル基を導入するとマグネシウム錯体触媒が有効となり、4位無置換体で見られたとは逆のエナンチオ選択性が高いレベルで現れる。 11) ニッケル錯体は、チオールと3-クロトノイル-2-オキサゾリジノンとの共役付加反応を触媒して、高エナンチオ選択的にチオール共役付加体を生成する。
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