研究概要 |
本研究は,レーザースペックルひずみ計を利用して,高分子のガラス転移領域での粘弾性緩和について,ポワソン比の時間変化から調べることを目的としたものである.初年度は,主に装置の開発,次年度はポリスチレンを中心にデータ収集を行った.この研究により得られた成果は以下の通りである. 1) レーザースペックルひずみ計を用いた伸張試験機の開発 伸張試験機にひずみ計を取り付け,粘弾性測定と同時に伸張方向と垂直な方向のひずみの変化の測定が可能な装置を開発した.この過程において,試験機の振動の軽減,恒温槽の風量の最適化,適当な強度のスペックルを得るための表面被覆材の探求等,種々の問題の解決が不可欠であったが,一応解決することができた. 2) 線形粘弾性と体積緩和 ポリスチレンについてガラス転移温度から,+15度の温度範囲で定ひずみ速度下で測定を行った.その結果,粘弾性関数が線形応答を示すような低ひずみ速度の条件では,ポワソン比は,低温短時間領域では,0.3程度,高温長時間領域では,0.5になった.この時間変化には,粘弾性関数と同様の時間温度換算則が適用可能であった.しかしながら,得られた合成曲線は,粘弾性体に対する線形理論の予想とは一致せず,ポワッソン比の時間変化が遅れることが明らかになった.これは体積変化に対しては線形領域がきわめて小さいためと考えられた. 3) 非線形体積緩和 ひずみ速度が大きく,粘弾性関数が非線形応答を示す場合には,短時間領域のポワソン比は増加し,0.5に近づくことが明らかになった.この結果は,伸張応力の降伏と密接に関連しており,高ひずみ速度条件下では,剛体的な応力発生よりも体積保存力が支配的になり,非圧縮性液体的な挙動を示すものと解釈できた.
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