研究概要 |
木材に横圧縮大変形を与えた後,高温の飽和水蒸気で処理すると,変形は,永久に固定される。本研究は,高温水蒸気下で木材のレオロジー測定を行って,変形の固定機構を明らかにすることを目的とした。このため,耐圧容器内に圧縮台および耐熱・耐圧ロードセルを組み込んだ装置を開発した。0〜200℃の温度範囲で応力-ひずみ測定を行い,降伏応力の対数と温度の関係を求めた。降伏応力は,温度によって,2段階に大きく変化した。70〜90℃を中心に起こる変化は,リグニン分子の軟化に,160〜180℃以上で起こる変化は,ヘミセルロースおよびリグニン分子の変性,分解に基づくものと考えられた。種々の温度,時間条件で応力緩和測定を行い,測定終了時点の残留応力と除荷後のひずみ回復の関係を求めた。種々の異なる温度,時間で得られた両者の関係は,1本の曲線で表され,残留応力は,ひずみ回復に応じて,特徴的変化を示した。種々の温度で,30分間クリープ測定した結果と,同じ温度で30分間放置後,30分間クリープ測定した結果を比較した。ヘミセルロース,リグニン,セルロース分子鎖の切断が主として生じている場合には,両者の測定で求めたクリープコンプライアンス曲線がよく連続したが,セルロース結晶格子の規則性が向上したり,非結晶領域において分子間架橋が形成されたり,ヘミセルロースやリグニン分子が変性し,疎水性の凝集構造が形成されるような構造変化が生じる場合には,それらの曲線は,連続しなかった。これらの結果と,化学分析,X線回折,赤外線吸収,強度的性質,ピリジンによる膨潤測定の結果を比較することによって,水蒸気処理による木材の変形固定には,処理温度,時間に応じて,ヘミセルロースやリグニン分子鎖の切断に伴う復元力の緩和,セルロース結晶格子の規則性の向上,非結晶領域における凝集構造や分子間架橋の形成などが関与していることが明らかとなった。
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