研究概要 |
紅藻7種,緑藻4種および藍藻1種から単離したレクチンについて,その糖鎖認識能を精査した。その結果,これらレクチンは,それぞれ特定の糖鎖(高マンノース型,複合型,高マンノース型と複合型の両型,フォルスマン抗原,またはシアリルルイスX型)に結合選択性をもち,また結合定数も極めて高いことがわかった。高マンノース型あるいは複合型糖鎖特異的なレクチンは,同糖鎖の分岐構造部分を認識部位とし,認識する分岐糖鎖構造の違いにより,さらに細分類されることも認めた。一方,それらN型糖鎖の分岐糖鎖のオリゴマンノース類やN-アセチルラクトサミン自身とは結合しないことから,N-型糖鎖との結合には,それぞれ還元末端側のN-アセチルキトビオースの存在が不可欠であることも判明した。このように,供試した海藻レクチンはそれぞれ,既知レクチンには見いだされていない,極めて選択性の高い厳密な糖鎖結合特異性をもつことを認め,ユニークな新規の糖鎖識別試薬として応用価値が高いことを明らかにした。 このうち,高マンノース型糖鎖結合特異性をもつ紅藻Eucheuma serraと藍藻Oscillatoria agradhiiの両レクチンの全一次構造を決定した。その結果,両レクチンは互いに極めて高い配列共通性をもつこと,N末端約67残基の相同配列がそれぞれ4(268アミノ酸)及び2回(132アミノ酸)繰り返したタンデムリピート構造をもつ単一ペプチド鎖からなることを認めた。両レクチンとも,単一ペプチド鎖あたりの相同配列のリピート数と糖鎖結合部位数が一致することから,リピート配列単位が一つの糖鎖認識ドメインを構成し,単一ペプチド鎖に多価の結合部位をもつこによって,細胞を擬集すると考えられる。既知蛋白質との構造比較から,両レクチンは粘性細菌Myxococcus xanthusの凝集素(267アミノ酸)とN末端67残基の相同配列のリピート構造をもつことを含め,極めて高い配列共通性をもつことを認めた。このように,紅藻,藍藻,細菌の下等生物間に一次構造レベルで新しいレクチンファミリーが存在することを見いだした。真核生物と原核生物との間でレクチン分子の構造共通性が認められたのは,これが最初である。 以上,本研究では,海藻レクチンは応用的価値が極めて高いだけでなく,レクチンの機能や分子進化を解明する上で貴重なレクチン群であることを明らかにした。
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