研究概要 |
生体の恒常性の維持に、神経-内分泌-免疫系が相互に作用しあっていると考えられるようになってきた。そこで神経-内分泌系細胞の両性質をもつ副腎髄質細胞に対して、免疫系の情報伝達物質であるサイトカインの一種インターフェロン-α(IFN-α)のカテコールアミン分泌やその再取り込みに対する作用を検討した。その結果、IFN-αがウシ副腎髄質細胞からのアセチルコリン刺激によるカテコールアミン分泌を抑制するとともに、副腎髄質のノルエピネフリントランスポーターを抑制しカテコールアミンの再吸収を阻害することが明らかとなった。 次にウシリンパ球(免疫系)とウシ副腎髄質細胞(神経-内分泌系)の直接の相互作用を調べる目的で両細胞を一緒に培養してみたところ、培養メディウムの中のカテコールアミン量が増加することが分かった。そこでリンパ球だけを培養して、その培養メディウムを副腎髄質に添加してみると、同様にメディウム中のカテコールアミンが増加してきた。この事から、副腎髄質細胞からのカテコールアミン遊離を促進する何らかの因子がリンパ球で合成され放出されていることが判明した。この因子を以下リンパ球由来因子と呼ぶことにする。 リンパ球由来因子を生化学的に部分精製し、その活性フラクションに対する抗体(ファジー抗体)をウサギにて作成した。リンパ球由来因子を生化学的手法(Sephacryl S-300カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等)で精製を試みたが、完全に精製するには至らなかった。そこで、上記のファジー抗体を用いて、ウシ脾臓cDNAライブラリィーから20ヶの陽性反応を示すクローンを分取した。その各々のクローンの部分塩基配列を解読して既知蛋白質とのホモロジー検索を行ったところ、全く報告されていない塩基配列をもった3ヶのクローン(NY10,NY11及びNY105)が見つかった。また、3ヶのクローン(NY16,NY18及びNY5)のさらに長い塩基配列を解読した結果、IgMの新しいisoform, ornithine decarboxylaseのあるイントロン領域、そしてserine proteaseの一種であることが判明した。 今回の研究により、神経-内分泌系の副腎髄質細胞に作用するリンパ球由来因子の存在を示し、免疫系から神経-内分泌系への調節作用に関する新たな1ページを開くことが出来たと考えている。
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