研究概要 |
有害化学物質暴露による健康影響の発現には相当の個体差(感受性差)が認められる.そこで,この様な個体差が如何なる宿主要因によってもたらされるかを,職業的な鉛暴露集団並びに喫煙,コークス炉作業,ディーゼルエンジンの排ガス等による多環芳香族炭化水素(PAH)暴露集団を調査対象として解析した.その結果,以下のことが明らかとなった.[1]鉛暴露の場合:最近,一部の研究者の間で,赤血球デルタアミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)の遺伝子多型が鉛暴露によるポルフィリン代謝異常発現の個体差に部分的に関与しているのではないかと言われている.そこで,この事実を再確認するために,約200名の鉛作業者を対象として,ALADの遺伝子多型性と血液中鉛量,尿中デルタアミノレブリン酸(ALA)排泄量,ALAD活性の阻害度との関連を検討したが,一定の傾向は認められなかった.[2]多環芳香族炭化水素(PAH)暴露の場合:PAHの代謝中間体とDNA塩基との共有結合により生ずるDNA adducts(付加体)の体内増加は発がん,特に肺ガン等のリスクを高めると言われている.しかし,ヒトリンパ球のDNA adducts量にはかなりの個体差が存在するため,この個体差が如何なる宿主要因によりもたらされるかを解析した.その結果,リンパ球DNA adductsレベルは,環境要因としてのPAH暴露量の他に,遺伝要因としての薬物代謝酵素,特にCYP1A1やGSTM1等の遺伝子多型性に影響されることが明らかとなった.
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