研究概要 |
(1) 神経膠腫における遺伝子異常と生命予後 本研究においては,まず第10染色体に遺伝子座をもつ,Ret,PTEN,Mxi,FGFR2,DMBT1遺伝子に注目した。それらに加えてp53遺伝子やp16遺伝子の異常と,glioblastomaの臨床的悪性度との関連について解析した.その結果,glioblastomaの生命予後に悪影響を与えているのは,p53遺伝子が正常であることと,FGFR2遺伝子が欠失していることであった.他施設からの報告では,PTEN遺伝子異常は予後不良因子であるとの報告がみられるが,我々の解析では生命予後の有意差はみられなかった.また,PTEN遺伝子異常は,p53遺伝子正常群,異常群に同じ頻度で検出され,p53遺伝子異常とPTEN遺伝子異常は独立した予後規定因子であると考えられた. (2) 神経膠腫組織におけるSV40 virusの検出 高齢者のglioblastomaの組織の解析では,PCRをもちいてSV40ウィルスゲノムの一部を検出するとともに,in situ hybridizationによりウィルスRNAを検出した.免疫組織学的にT抗原を検出することは困難であった.このことより,glioblastomaの組織中には,T抗原を短時間に不活化する機構が存在するか,あるいは,T抗原の発現を必要とせずにウィルスが生存しうる環境が存在することが考えられた.今回,glioblastoma組織よりSV40 virus RNAを検出したことは,ウィルス感染が発癌過程に関与している可能性を強く支持するものであった. glioblastomaの遺伝子異常が詳細に解明されるにともなって,遺伝子型に基づいた分類が少しづつ可能となってきている.遺伝子型に基づいた分類は,より腫瘍の細胞生物学的特性を反映することができるものと思われる.
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