研究概要 |
本研究の第一の目標として,軟骨破壊におけるパーオキシナイトライトの意義を検討することとした。パーオキシナイトライトは活性酸素と一酸化窒素が反応することにより生成されるガスメディエーターである.我々はすでに軟骨細胞をinterleukin-1(IL-1)処理することにより,この二つのガスメディエーターが生成されることを報告している.合成化合物SIN-1は活性酸素と一酸化窒素の両者を同時に発生させる.SIN-1を軟骨細胞に作用させるとプロテオグリカン(PG)合成が濃度依存性に抑制された.活性酸素・一酸化窒素の中和剤はSIN-1によるPG合成抑制を回復させた.パーオキシナイトライトはチロシンをニトロ化する性質があるが,これを利用してIL-1処理関節軟骨での抗ニトロチロシン抗体陽性顆粒の存在を証明した.これは一酸化窒素・活性酸素の中和剤で消失することより,この両ガスメディエーターの発生が必要であることが示唆された.さらに,IL-1によっておこるプロテオグリカン合成抑制は一酸化窒素・活性酸素の中和剤で回復された.また精製バーオキシナイトライトは濃度依存性にプロテオグリカン合成を抑制した.これらのことより,IL-1によるプロテオグリカン合成抑制はバーオキシナイトライトにより調節されていることが示された. 本研究の第二の目標は,関節症の将来的治療法として期待される軟骨移植におけるガスメディエーターの意義の検討である.家兎の膝関節軟骨に軟骨欠損を作製し,肋軟骨より採取した軟骨膜を移植した.非移植群では欠損部周辺に移植群では見られない軟骨変性を示した.また周辺軟骨の活性酸素と一酸化窒素量が,移植群に比較して有意に高く,これらのガスメディエーターが軟骨移植の成否を決定する因子である可能性が示唆された. 以上の結果は,軟骨破壊の病態やその治療を考える上で,ガスメディエーターが重要な働きをすることを示している.
|