研究概要 |
重度成人性歯周炎罹患抜去歯を走査型電子顕微鏡で詳細に検索した結果、歯肉縁上および縁下プラークの定着・増殖には細菌バイオフィルム形成メカニズムが関与していることを明らかにした。また,走査免疫電顕法による検索から、歯肉縁上プラークではActinomyces viscosus,Eubacterium alactoliticum およびStreptococcus mutansがglycocalyx様構造物とともに検出され、歯肉縁下プラークのプラークフリーゾーンではPorphyromonas gingivalisとA.viscosusがglycocalyx様の不定形の構造物に被覆され検出された。初期プラーク構成細菌とされているA.viscosusは,歯肉縁上だけでなく縁下プラーク根尖側部においても,歯根面に付着してバイオフィルムを形成し,異種細菌とフィルム内で特異的または非特異的に凝集・増殖しているものと推察された。P.gingivalisは,歯周ポケット底部でバイオフィルムを形成することにより宿主の攻撃力に抵抗し,病原性を発揮している可能性が示唆された。以上の結果をもとに,A.viscosusのinvitro系におけるバイオフィルム形成実験を行った。縁膿菌バイオフォルムの形成実験に使用されるModified Robbin's Deviceを用いてバイオフォルムを形成させ,走査型電子顕微鏡によりバイオフォルム形成過程を経時的に検索した。3日目では,プレート上にA.viscosusの付着は認められたが,菌体表層にglycocalyx様の構造物はみられなかった。7日目以降では,増殖したA.viscosusの菌体表層にフィルム様の構造物が観察され,本実験系がA.viscosusによるバイオフィルム形成モデルとして利用できることが示唆された。 う蝕や歯周病は混合感染症であり,デンタルプラーク中のバイオフィルム形成メカニズムの全貌を明らかにするのは研究技法的にもかなり困難であるが,本研究から得られた知見を基に現行のプラークコントロール法を評価し,現時点で適切と思われるプラークコントロール法を提示した。
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