研究概要 |
歯周病に対して合成ペプチドを用いたP.gingivalis感染に対する免疫療法を導入する試みの第一歩として,Ag53に対するT細胞応答性(T細胞認識部位,HLA拘束性,リンフォカイン産生性および抗体産生への関与)を歯周病に対する疾患感受性の異なるグループ間で比較し,分子レベルでその違いを把握することを行った。その結果は以下の通りである。 1) Ag53を特異的に認識するT細胞株を早期発症型歯周病(EOP)患者6名および健常者16名の被験者から樹立し,それらT細胞株のAg53上の認識部位を調べた結果,EOP患者由来のT細胞株の多くは,Ag53の特定の領域Ag53p141-161をT細胞エピトープとして認識した。それら被験者は共通したHLAハプロタイプを有さなかった。 2) Ag53に対するT細胞応答は,多くの被験者でHLA-DRBl分子拘束性であった。 3) すべてのT細胞株は,Thlタイプのサイトカインであるインターフェロン-γ(IFN-γ)を産生した。Th2タイプのサイトカイン(IL-4,5,6,10)の産生様態は各株ごとに異なった。 4) T細胞が産生するサイトカインがIgG抗体産生にどのように影響するかを評価した結果,Th1に対するTh2タイプのサイトカイン産生量の比率(Th2/Th1)が高いT細胞株は,強いAg53特異的IgG抗体産生を誘導した。しかし,Th2/Th1が低いT細胞株は,抗体産生を誘導しなかった。 5) Ag53特異的IgG抗体産生が誘導された系の培養上清に含まれるIL-5量は,産生のなかった系に比較して多かった。以上の結果は,T細胞株が産生するIL-5が,Ag53特異的なIgG抗体産生に影響を与えることを示唆するものである。 以上の結果から,Ag53p141-161に対するT細胞応答性の違いはP.gingivalis感染に対する感受性を反映する可能性がある。
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