研究概要 |
本研究は,歯根面齲蝕とくさび状欠損の疫学,要因分析,細菌叢とその生化学的性状および咬合接触要因について調査検討を行い,この結果から予防指針の立案と提唱を試みたものである。 1.歯根面齲蝕とくさび状欠損に関する疫学調査と要因分析の結果から,これらの症状の発現時期には共通性が認められたが,上顎は前歯部に下顎は臼歯部に多発する歯根面齲蝕と,上下顎ともに小臼歯部に多いくさび状欠損には,aging以外の異なる要因の関与が示唆された。実験疫学的な分析とアンケート調査結果は,主な要因として唾液,フッ化物の応用ならびに咬合接触状態などの関与をうかがわせた。 2.歯根面齲蝕とくさび状欠損の病巣局所の微生物学的な比較分析の結果は,歯根面齲蝕の発病と進行に関わる特定の病原性細菌の存在(mutans streptococci,Lactobacilli)を疑わせたが,くさび状欠損については発現時の細菌学的な関与の可能性を推測することが困難であった。また,グラム陽性菌17菌株を試料として,平成9年度に本研究費で購入した電気泳動光散乱光度計による細菌のゼータ電位の分析は,齲蝕病原性の高いmutans streptococciがマイナスに低い傾向を示し,Actinomycesは逆にマイナスに高い傾向を呈したことは,歯根面への吸着性の違いを推測させた。 3.歯根面齲蝕とくさび状欠損の有所見者と咬合接触状態については,年齢集団によって平均咬合圧における統計学的な有位差は認められたが,各年齢群に共通する一定の傾向を明確に得ることはできなかった。また,1歯単位の分析として,歯根面齲蝕を有する臼歯とこれに対応する健全歯との比較調査では、歯根面齲蝕を有する歯で咬合接触面積が高い傾向を示した。 4.予防指針については,フッ化物と抗菌製剤の応用と唾液分泌の促進および口腔保健行動の改善が望まれるが,当初予測した咬合接触状態の要因については明瞭な分析結果が得られなかった。
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