研究概要 |
近年リン原子を含む不斉二座配位子が広範に利用され、高い立体選択性を持つ種々の有機合成反応が見いだされている。我々は不斉単座ホスフィン配位子に注目し、これまで多くの合成がなされているが実際の不斉合成反応において効率の良いものが少ないことから新規骨格の不斉単座配位子の設計、合成に着手した。本研究では新しい立体制御因子を取り入れた立体制御能の高い不斉単座ホスフィン配位子の設計合成を行い、遷移金属との組み合わせで効率の良い触媒的不斉合成法の開発を目指して研究を行った。そして,6員環上の1,3-ジアクシャル相互作用を立体制御因子として利用することを考え、(1R,2S,5R,6S)-2,6-ジメチル-9-フェニル-9-ホスホビシクロ[3.3.1]ノナン((-)-9-PBN)とこれの対掌体を設計し、これの合成に成功した。 この不斉単座配位子を用いる不斉合成として、パラジウムと(-)-9-PBNを触媒とするアリルエステルとマロン酸エステルとの間の不斉炭素ー炭素結合形成反応を検討したところ、反応は定量的にそして94%の鏡像異性体過剰率で進行することが認められた。この反応をさらに不斉炭素ー窒素結合,炭素ー酸素結合形成反応に拡大し,窒素求核剤との反応で高い立体選択性が得られることを見つけた。さらに酸素求核剤としてトリメチルボレートを用いた場合に96%eeと高い不斉収率が得られた。また環状アリルエステルにこの反応を適用したところ6員環の基質では12%eeと期待外れの結果であった。9-PBNの骨格を考慮すると基質の2位に置換基が存在すると好結果を得られると推測された。実際に予想どうり2-メチル基の存在は中程度の不斉誘起を示し、またより嵩高いフェニル基、アセチレン基の存在ではそれぞれ95%ee、90%eeと高いエナンチオ選択性が得られることが明らかになった。
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