研究概要 |
完新世後半の仙台付近のような気候条件(年平均降水量約1,200mm,最暖月平均気温約24℃,最寒月平均気温約1℃)の下で,新第三紀層から成る丘陵斜面は,上部セグメントでの継続的な風化・匍行および低頻度の表層崩壊により準備された上層が,下部セグメントおよび上部セグメント中の特定の位置(とくに谷頭急斜面)でより高頻度に崩壊することによって発達してきた。上記の"高頻度"とは, 2次流域の単位でみて数百年に1回程度,"低頻度"とは,一つの谷頭凹地を取り巻く斜面の単位でみて2,000-3,000年に1回程度とみられるが,基岩(やその風化層)の岩質(とくに水分保持条件)によって異なる.その結果,下部谷壁斜面や谷頭急斜面が相対的にはやく発達し,それらが既存の上部谷壁斜面・頂部斜面等の占めていた領域に拡大しつつある。微地形単位の集合から成る丘陵斜面の発達過程には上記のような共通した方向性が認められるが,微地形単位間のプロポーションは,基岩の岩質(透水,保水など水文地質特性および(おそらく)侵食抵抗性)により異なる.なお,斜面のプロセスと水流のプロセスとの接点の一つである谷頭凹地は,更新世末までにその原形が形成されていたものが大半を占めると思われるが,完新世においてもまったく成長を止めているわけではなく,基岩の岩質や背後斜面の比高・傾斜によりさまざまな速さで拡大しつつ,前面から水路に開析されて縮小している.数千m^3に達する大規模な表層崩壊によって新たに"谷頭凹地"状の地形が作り出され,同時にその底部にパイプ孔が出現して,そこから水路が始まりつつある事例もある. この結論は,従来から予想されていたことの一部を定性的・定量的により明確にすると同時に,他の一部を修正したことになる。この研究を通して,温帯モンスーンアジアでの後氷期の斜面発達過程における表層崩壊の意義を明らかにするという,基礎地形学の成果を上げるとともに,斜面防災・傾斜地環境管理という応用地形学の研究の進展にもそれなりの貢献ができたと考えている.
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