我々はこれまで、タンパク質の立体構造予測問題に、物理学の分野で開発された、徐冷モンテカルロ法やマルチカノニカル法を適用することを提唱してきた。これまでは、小ペプチド系において、第一原理からの構造予測を試みてきたが、これらの手法はX線実験やNMR実験から得られる構造決定にも使えることを示すと共に、有功なプログラムを開発することが本研究の目的である。 平成9年度では、まず、溶媒効果を取り入れる有効な手法として、RISM理論を導入し、最適化法の徐冷法との合体を成功させた。また、マルチカノニカル法では、その確率重み因子を求めるのが容易でないので、それが比較的簡単に求められる新しい手法を開発することが重要であるが、我々は重み因子が簡単に求められる、Tsallis統計に基づく新しいモンテカルロ法を独自に開発することに成功した。そして、その有効性をアミノ酸数5個のペプチドであるMet-enkephalinの系で確かめた。 平成10年度では、まず、このTsallis統計に基づいた新手法の分子動力学法版を開発することを目指し、それに成功した。これは、X線実験やNMR実験から得られる構造決定ではモンテカルロ法よりも分子動力学法が広く使われているために、ぜひやっておきたかったことである。我々は更に、マルチカノニカル法によるシミュレーションによって、ribonucleaseAのC-peptideの立体構造予測に成功するとともに、徐冷法によるシミュレーションによって、bovine pancreatic trypsin inhibitorのフラグメントの立体構造予測にも成功し、これらの結果がX線実験やNMR実験の結果と良く一致することを示した。
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