研究概要 |
一つの生体内活性物質の役割を,分子的基盤のもとに明らかにすることは生命科学における最重要課題である.本計画の目的は,1.ドーパ非感受性線虫の遺伝学的解析による“ドーパ受容体及びシグナル伝達分子"のクローニング及び2.ドーパトランスポーターの発現クローニングである.主要成果は以下の2点である. 1. 線虫実験系:すでに線虫をドーバを含むプレートに置いた際に生ずる一定の行動学的応答を指標に同応答を示さない変異株,dpa 1-9の9つを単離した(平成9年度成果).ドーバ非感受性変異株の表現型の解析: 遺伝学的解析を確実に行う為,dpa変異株の野生株との最も顕著な表現型の相違を検討した.従来までの検討の結果 (1)dpa 3は3 M fructoseに対する忌避反応低下を示した.(2)dpa 1-9はNa^+走化性の異常を示した.この表現型を指標にすでにdpa 1-9を野生株とそれぞれ4回づつ交配させ,遺伝学的に純化した.(3)dpaの表現型は知覚神経異常であるとの推定をもとに,神経伝達物質の放出に関わる分子synaptotagminの変異体unc-3と,dpaとの2重変異体の作成により表現型が顕在化するか否かを検討した.そのうちdpa 2,7,8とunc-3との2重変異体は,いずれもdauer幼虫形成に異常が生ずることが判明した.ドーパ変異株の遺伝子座解析: 表現型(2)を指標に,dpa 2,7は染色体IV,dpa 8は染色体IIIに存在すると推定された. 2. ドーパトランスポーター発現系の確立 すでに,ウサギ小腸上皮細胞からのmRNA注入アフリカツメガエル卵母細胞において非注入卵に比し,約5倍程度の有意なNa^+-依存性の[^<14>C]-L-DOPA取り込み活性を確認した.同ドーパ取り込み活性のKm値は約20-30uM,また,他の中性大型アミノ酸であるTyrosine,phenylalanine,塩基性アミノ酸lysineなどにより取り込みが阻害された.同取り込みは外液Na^+に依存性,Cl-に非依存性であった.ウサギ小腸上皮mRNAのサイズによる分取を終了し,その最も高い取り込み活性をになう分画を同定した.この分画は中性アミノ酸取り込みアクチベーターrBATのサイズと一致した.ウサギrBATが同取り込み活性に関与するかを検討した.アンチセンスrBATをウサギ小腸上皮mRNAとともにco-injectionすると,ドーパ取り込みは著しく抑制された.従って,ウサギ小腸上皮mRNA由来ドーパ取り込み活性にはrBATが必須因子として関与することが判明した.現在,rBATによって活性化されるトランスポーターそのものを同定すべく、解析を進行中である.
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