研究概要 |
本研究は、これまで筑波大学で開発してきた高エネルギーイオンビームによる鉱物中の微量元素分析法を更に発展させ、高圧合成実験試料などの微小試料の非破壊定量分析法を開発すること目的とした。4年間の計画年度内に、1)高圧合成試料測定用のマイクロビームラインと測定試料室の完成、2)高圧合成試料の測定法の開発、3)鉱物及び流体包有物中の微量元素の定量分析法の開発を行った。 専用マイクロビームラインの開発では、四重極電磁石によって4MeV,2nA,直径50μmのプロトンビームの実現に成功し、それ以下の電流値で更にビーム径を絞ることができた。試料室の開発では、微小移動ステージと顕微鏡、軽元素と重元素の同時分析のための2つの半導体検出器を備えた試料室の開発に成功した。この装置を用いて,グラファイトカプセル中に5%の水を含む玄武岩粉末を,7.7GPa,2000℃の条件で保持した試料を分析した.測定の結果,炭素部分では玄武岩に由来する殆ど全ての元素が観察され,炭質物には様々な不純物が高濃度で存在し,天然ダイヤモンド中のグラファイト包有物との比較により,ダイヤモンド形成に関する豊富な情報を得られることが分かった.また、地球内部での元素移動の解明やダイヤモンド包有物の定量分析を進める上で、流体包有物中の微量元素の定量が重要であることが明らかとなったため、マトリックス中に埋没した微小包有物の非破壊定量分析法の開発も行った。開発した定量法で元素濃度とサイズが既知の人工流体包有物を定量した結果,今回の分析法で10〜1000ppmの濃度の元素を平均誤差±11%以内に定量できることが分かった.遷移金属元素の検出限界は数ppmであった.この手法を用いて花崗岩体近傍の石英脈中の流体包有物を分析したところ,wt%レベルのCa,Fe,数百〜数千ppmのZn,Pb,Cu,Br,数百ppmのRb,Sr,数10ppmのMnが認められた.今後、高圧合成試料だけでなく、マントル物質中の流体包有物の組成分析を通じて、地球内部での元素の挙動を解明していく予定である。
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