研究概要 |
最近,研究代表者らの調査により,録音ろう管からメッキを用いて型をとったネガティブあるいはガルバノと呼ばれる金属管がベルリンの国立民族学博物館に大量に保管されていることが明らかとなった.このネガティブには,19世紀末から20世紀半ばにかけて録音された世界の民族音楽が記録されているが,通常のろう管再生機(蓄音機)では再生が不可能であることから,これらの貴重な音声資料の利用が極めて困難な状態にある.本研究は,これらのネガティブから実時間で音声を再生するため,レーザーを用いた非接触式の光学的音声再生装置を開発することを目的としている. 1. 小型光学系の開発 ネガティブ管は,金属管の内壁の凸状の部分に音声情報が記録されている.その凹凸変化をレーザービームの反射方向の変化として検出するため,半導体レーザー,小型のレンズ,ミラー,ビームスプリッタ,ビーム位置検出素子等を使用し,管の内部に挿入可能な小型の光学系を設計した.また,検出光学系には結像レンズとピンホールからなるリレー光学系を挿入し,不要な散乱光等を効率よく除去し,再生音声のSN比の向上を図った. 2. 駆動ユニットの開発 内径58mmの保持筒にネガティブを挿入し,それを6本のネジにより周囲から固定してネガティブを保持し,この保持筒を直流モータにより回転駆動し,直流モータと保持筒全体を搭載したステージを円筒の軸方向にパルスモータを用いて直線駆動するシステムを開発した.保持筒にはロータリエンコーダを装着し,円筒の回転速度に対応してパルスモータによる直線移動を制御した. 3. 総合特性の確認と日本の音楽資料の再生 以上の各システムを結合させ,光学的音声再生装置としての総合的な動作を確認した.さらに,試作した装置を使っていくつかのネガティブ管から音声の再生に成功した.その中には,1901年にベルリンで録音された新演劇俳優川上音二郎の一座による三味線や琴の演奏が含まれている.
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