研究概要 |
本研究においては,培地循環型のパクリタキセル(タキソール)連続製造プロセスを実用化するために,主として,1)培養細胞によるパクリタキセルの分泌生産速度の限界を見究め,固定化細胞を用いた灌流培養において,高希釈率で分泌生産を促進し高いパクリタキセル生産性を実現すること,2)培地中の低濃度のパクリタキセルを効率的に回収し,培養系へ戻して循環再利用するタキソール分離方法を確立することである。その結果,以下の知見が得られた。 1)溶媒抽出によるパクリタキセル分離法の検討:培地からのジクロロメタン抽出後にノルマルヘキサンによる再抽出を行なうことにより,抽出後の培地の繰り返し使用が可能であり,培養系には大きな影響を与えないことが,明らかとなった。また,他のいくつかの溶媒との比較検討も行なった結果,トリカプリリンなどもジクロロメタンと同様の高い抽出効率があることも示された。 2)吸着によるタキソール分離法の検討:チューブリン固定化ビーズ,β-CD固定化ビーズを作成し,吸着特性の検討を行った。チューブリン固定化ビーズは,パクリタキセルとその前駆体10-DABの分離が可能であり,また,他のチューブリン結合型の分裂阻害剤に対しても特異的な吸着特性を示し,抗癌剤のスクリーニング系としても利用可能であることを示した。また,β-CD固定化ビーズも,パクリタキセルを吸着することが示された。 3)懸濁物を含む系でのタキサン類およびタキサン類生産細胞の分離:培地中の懸濁物質の存在を考え,膨張層型の分離を念頭に,β-CD固定化した磁気ビーズを作成したところ,タキサン類の高生産細胞を選択的に吸着することが可能であり,磁気による生産細砲の分離・保持が可能であることが示された。 4)トータルのタキソール連続生産システムの構築:以上の検討結果から,固定化細胞によるパクリタキセル生産サブシステムと選択的吸着による連続分離システムを組み合わせて,培地循環を伴うパクリタキセル連続生産システムが構築可能であることを示した。
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