研究概要 |
膵由来型RNaseはRNA加水分解酵素なので,細胞内に入れば毒になる可能性がある。しかし細胞はRNaseを積極的に取り込む機構を持たず,また細胞内に普遍的に存在するRNaseインヒビターが誤って漏れ込むRNaseを無毒化するため,これらのRNaseはほとんど毒性を示さない。成長因子の受容体を標的として利用したときの悪性細胞に対するRNaseの毒としての潜在能力を調べるために,ヒト膵臓RNase(RNase1)のC末端側をヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)のN末端側につないだ融合蛋白質を調製した。その結果,このRNase-FGF融合蛋白質は,FGF受容体を細胞表面に過剰発現していることが知られている培養ガン細胞であるマウス黒色腫細胞株B16/BL6に対して効果的に増殖を阻害した。この増殖阻害効果は,細胞を殺したり,ある特定の段階で細胞周期ストップさせる効果ではなく,細胞周期全体の回転速度を一様に遅くする効果であることがわかった。以上のことより,ヒトRNaselは,FGF受容体のような細胞表面蛋白質に対するリガンドとつなぐことによって,正常細胞には毒性を示さず,悪性細胞のみに選択的毒性を発揮する能力を持つ有望な分子であると結論された。
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