研究概要 |
本研究では,ポストCCAとして申請者らが開発したキトサン金属塩(主にCCS)による実大材への注入処理標準施工法の確立,浸潤度の迅速な計測法の開発,薬剤浸透性の改善,ならびに注入処理材の実用的耐朽性能の評価等について検討し,CCSの毒性についても予備的に検討した。得られた成果の概要は次のとおりである。(1)簡易画像計測システムの開発により,浸潤度を迅速に定量的に計測できるようになった。(2)スギ,ベイマツ,ベイツガの正角材を,常法の減圧・加圧注入処理法で注入した場合,ベイマツで約25%,スギやベイツガでは80-90%とCCA3号と同程度の浸潤度を示したが,ベイマツは目標値の約70%しか注入できなかった。(3)5回繰り返し使用後の薬剤有効成分の残存率から,CCSはCCA3号と同程度の安定性が認められた。(4)PEG変性キトサン銅塩(MCCS)ならびに低分子キトサン銅塩(CCS2)の浸透性能について,CCSは相対浸潤度K値が0.5以下であったが,CCS2とMCCSはいずれも1.0,0.8と高く,高い浸透性を示した。ただし,CCS2はCCSより固着性能が劣っていた。(5)CCS注入処理杭の野外(鹿児島県吹上浜国有林内のシロアリ生息地)埋設試験では,シロアリおよび腐朽菌類による目視被害は6年間ほとんど認められなかった。低濃度処理杭は6年目でも外見上健全な状態を示したが,杭表面から約数mm深さまで分野壁孔壁孔膜が分解消失しており,仮道管壁も1mm深さ以内でのみ微細な劣化が観察された。標準濃度処理杭では表面から1mm深さのところでさえ劣化は皆無であった。(6)銅元素は杭試験体の極表面(0.5mm深さ以内)と放射組織中だけに存在し,しかも放射組織中の銅元素は杭試験体中央部にまで浸透していた。薬剤のこのような選択的浸透固着が,長期間の耐朽性を付与したものと考えた。(7)ペースト状のCCSを,1000,1500,3000ppmの各レベルで2〜3匹(3000ppmレベルのみ11匹)のラットに経口投与し,急性毒性試験を行った。いずれの濃度レベルにおいても,1匹を除いた全てのラットにおいて,2〜3週間以内では,健康状態に異常は全く観察されなかった。なお,1匹は投与3日目で死亡したが,剖検検査の結果,投与時の咽頭の傷が原因で窒息死したようであり,投与薬剤が胃腸内に残存していたものの,肝臓,肺,腎臓は肉眼的に正常であった。
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