研究概要 |
マルチプレックスPCRとシークエンスによるSTR多型解析システムの開発にあたって、以下に示す基本的条件に従って各種STRを検索した。即ち、(1)一回のマルチブレックスとして組み合わせるSTRは3-4種類を限度とし、泳動像が互いに重ならないこと。(2)組み合わせるSTRは、本邦でよく利用されており、アリルの出現頻度などの基本的データが入手可能なものであること。(3)アリル塩基配列に変異が少ないSTRの組み合わせから変異が多い組み合わせのものまで3-4種類のマルチブックレスシステムを準備し、親子鑑定や個人識別での利用に際しては前者のものから順次実施すること。(4)当初からのシークエンス解析は避け、必要な場合にも全てのアリルを対象とするのではなく、既に変異が報告されているアリスを優先的にシークエンス解析すること、などを基本的条件とした。 VWA-FES-THO1のtriplexシステムでは、VWAおよびFESについては良好な泳動像が得られ、型判定も可能であった。しかし、Edwardsらによって報告されたプライマーによるTH01は、その一部のアリルがVWAのそれらと重なり型判定が不能であった(本植助金で購入したDNAシーケンサー(LIC-4200-A00)は一種類の標識色素を用いるため、泳動像に重なりがあれば、型判定はできない)。そこで、Gillらによるプライマーについて検討すると、泳動位置に問題はないもののVWAの泳動位置に余剰なバンドが出現し、VWAは判定不能となった。現在、THO1に換えて、F131を用いるVWA-FES-E13AのTriplexシステムについて検討した。このシステムでは、アニーリング温度を54℃とした時に同時に各STRとも増幅可能であった。日本人集団試料について本システムで調査すると次の成績が得られた。即ち、アリルの頻度はVWA(n=114)では、14:0.110,15:0.035,16:0.215,17:0.250,18:0.250,19:0.118,20:0.022、FES(n=103)では、9:0.015,10:0.087,11:0.364,12:0.320,13:0.209,14:0.005,F13A01(n=114)では、2.3:0.356,4:0.081,5:0.021,6:0.542であり、それぞれHardy-Weinbergの法則に矛盾は認められなかった。また、それぞれのheterozygocity・ discrimination power・meanexclusion chance-polymorphism information contentは、VWA・0801・0930・0577・0.742、FES:0.714・0.863・0.410・0.610、F13A01:0.572・0.735・0.214・0.412であった。 X染色体上のSTRX1、HPRTB、ARAについて、Y染色体上のDYS390、DYS393について、マルチプックレスPCRシステムを検討した。アニーリング温度55℃でSTRX1、HPRTB、DYS390、DYS393のquadrplexが、同じく60℃でARA、DYS393の組み合わせが、アニーリング温度55℃と60℃でARA、DYS390の組み合わせが可能であった(J Forensic Sci,44(4),1-6,1999)。 本研究の目的の一つは、STR断片の塩基配列の差異による構造多型に言及することであった。しかし、我々が指向したダイレクトシークエンス法では、往々にして配列を判読不能な部分が複数箇所認められ、問題を残すこととなった。STR構造多型、特に塩基配列決定法については今後の課題としたい。
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