研究概要 |
本研究の目的は,テロメラーゼ複合体コンポーネントのクローニングと機能解析という基礎的な部分と,その臨床応用とのふたつがある。1)ブタ精巣から各種力ラムを通じて精製を進め,数本の蛋白質バンドにまでテロメラーゼを精製したが,研究途中でテロメラーゼの触媒サブユニットcDNA(hTERT)クローニングが報告された(1997年8月)。国内でも東工大の石川教授のグループが,下等生物とのホモロジーによってクローニングに成功したので,共同研究により解析を進めた。2)培養線維芽細抱ではテロメラーゼ活性とhTERT発現とが相関しており,活性調節は発現調節で行われることがわかった。3)テロメラーゼ活性をもたないヒト正常細胞ではテロメラーゼ鋳型RNAをコードする遺伝子hTERCやテロメラーゼ付属タンパク質TEP1の発現はあるが,hTERT遺伝子は発現していない。hTERTcDNAをヒト正常線維が細胞に導入して強制発現させたところ,テロメラーゼ活性が誘導されることがわかった。4)hTERTを導入して強制発現させたヒト線維芽細胞は,分裂寿命が延長するものの,不死化には至らなかった。分裂寿命の最後まで,テロメラーゼは発現していた。テロメラーゼの発現は不死化に必須であるとしても,それだけで十分条件ではないものと考えられた。5)これに対して,SV40でトランスフォームしたヒト線維芽細胞にhTERTを導入して強制発現させた場合には,分裂寿命の大順な延長だけでなく,大部分が不死化するものと思われた。6)正常および慢性疾患肝組織,および肝細胞癌組織におけるhTERT,TEP1,hTERTのmRNA発現を調べたところ,テロメラーセ活性の有無にかかわらずhTERTとTEP1の発現はみられたが,hTERT発現程度はテロメラーゼ活性程度と良く相関していた。7)ヒトテロメラーゼの触媒サブユニットhTERTタンパク質にたいする抗体により,テロメラーゼをin situで検出した。胃癌,大腸癌組織の切片では,癌細胞の核内に強いシグナルが見られたが,ほとんどのストローマ細胞では陰性であり,抗体染色はテロメラーゼのin situ検出法として利用できる可能性があることがわかった。以上の通り,本研究は基礎・臨床両面にわたって初期の目的にそって十分な成果を上げることができた。
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