研究概要 |
本研究は,細胞老化に伴って発現が変化する遺伝子の転写をグローバルに制御している分子を特定することを目的としている。まず3年計画の初年度としては,これまで行なってきた細胞内シグナル伝達システムの解析を展開して,老化に伴うシグナル伝達分子の発現変化の分析へと進めた。培養ヒト繊維芽細胞を用いたRT-PCRにより,調べた分子のうち,Grb2/Ash,c-Crk,Nck(いずれもアダプター蛋白質),PI3-キナーゼp100α(線虫Age-1相同分子),WRN(早老症原因ヘリカーゼ)の発現が老化した細胞で低下していることが初めて分かった。このことは,これまで知られていたコラーゲン,フィブロネクチンなど細胞骨格,細胞外マトリックスに関連する蛋白質の外にも,老化に伴ってこのような発現の変化が一斉に起こっていることを示しており,転写制御に関わる出来事の,老化における重要性が改めて明らかにされた。引き続いて,そのような転写制御を解析するシステムを樹立するため,オステオネクチン,プラスミノーゲン活性化因子阻害蛋白質など老化関連分子やPCNA,hsp70など細胞制御分子のプロモーター領域DNAを調製して,サウス・ウェスタン法で核蛋白質との結合を調べたところ,老化に関係して量的な変動を示す核蛋白質の存在が検出された。これらのプロモーター領域DNAを磁石ビーズに繋いで核蛋白質を反応させると,それぞれのDNAに特異的に結合していると思われる分子種の結合が見られたので,これらの蛋白質を分離する手段として応用できると考えられる。そこで,ファージ・ディスプレイ・ベクターを用いたcDNAライブラリーを構築して,プロモーター領域DNA連結磁石ビーズに結合するファージを単離することによって,特異的結合蛋白質を提示しているcDNAクローンを選択的に取り出す実験を進めている。
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