武満徹(1930〜1996)の作品を音の身ぶりの観点から分析し、音の身ぶりから曲全体のコンテクストがどのように導かれているか、また、武満の音の身ぶりはどこに由来するのかを考察した。 武満の器楽作品とオーケストラ作品をはじめとするコンサート用作品ならびにポップソング、映画音楽を対象に各作品において敷衍される最小単位としての旋律進行を抽出し、それらに共通する音の身ぶりとして、長2度あるいは短2度で蛇行的に動く旋律進行を指摘するとともに、それとは対照的と思われる跳躍進行も、それと連続的な関係にあることを指摘した。曲全体のコンテクストの最小単位としての旋律的身ぶりは、変形されるというよりも、音色を変えながらくり返されることで、あるいは他の調の旋律的身ぶりを交替させることで、武満の音の身ぶりそのものの特徴である焦点を固定させない音の継起が相乗的に敷衍されてコンテクストを導くことが認められる。 これらの音の身ぶりは武満のポップソングと互換性をもつことが認められ、武満が自ら言葉を発するさいの方法意識に由来すると考えられる。今回、器楽作品やオーケストラ作品だけでなく、ポップソング、映画音楽、合唱曲を対象にしたことで、それらに通底する武満の音楽語法の特性とその由来を、より明確に指摘し得た。
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