研究概要 |
1997年8月,左右反転めがね2週間着用実験を行った.これまでのめがねに比べ,左右方向の視野が110度と画期的に広いものを作成し,使用した。 本研究で重点を置いた自動化された知覚-運動協応の再獲得過程を追うため,ビデオ運動解析装置を導入した.めがね着用期間中,3日おきに定期的に光源あるいは音源に向かって素早くリーチングする課題を課し,その様子を上部からビデオ撮影した.手元のスタート地点から手を離すと,いままで見えていた光源や音源の映像が遮蔽され,かつ動かしている手も見えない視野遮断条件と,リーチング動作のあいだ中,手も光源・音源も見えている視野情報持続条件を設定した.30分の1秒を1フレームとする手の動きの詳細な時空間分析を行った。 特記すべき点は,視標へのリーチングと音源へのリーチングの反応様式がまったく異なったことである.順応が進むにつれ,視覚視標に対しては,逆さめがねを通して見えるはずの位置(作業は閉眼で行う)へリーチングするというパターンへ収束していったが,音源に対しては,日数が経過するにつれ,どこへ手を伸ばせばよいのか捉えられなくなっていった。その結果,左右の音源へのリーチング成績は,チャンスレベルにとどまることになった。被験者の内観報告によれば,「日が経つにつれ,音源が点ではなく左右に広がって聞こえ,音源がどこなのか分からなかった」と言う。また,目標への手の動きの詳細な分析から,視覚的に変換を被っていない前方向へはスムーズに手が進むが,変換を被っている左右方向では,途中,一時的に停滞や小さな逆戻りが混入することが見いだされた.定位運動のバリスティック性を,2次元で分解して捉える必要性を示唆する興味深い知見である.また,このたびの研究で行った左右反転めがね長期着用実験「金沢'97」の概要は,金沢大学文学部紀要に公表した。
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