研究概要 |
[目的] 文の文法性判断において係留効果を見出したNagata(1992)に対してCowart(1994)は「係留文は,文の構造的特徴に由来する文法性の判断パターンに影響することはない」と批判した.この批判に応えるため生成文法における下接の条件を逸脱した文を用いて,以下の3実験を行った. [実験1] 表面構造が類似し,かつ文法性判断値において異なる2種類の文を刺激文とした.一方の文型は従属節が主節の主部の主観的経験を表していた(主観文)が,他方の文型にはこのような特徴はなかった(非主観文).係留文を非主観文,target文を主観文にした場合で同化効果が得られた. [実験2] 被験者の認知スタイル(場依存性)を実験1の課題条件と組み合わせた.その結果,場依存的な被験者においては主観文を係留文にすると非主観文はより文法的であると判断されたのに対し,非主観文を係留文にすると主観文はより非文法的であると判断された(同化効果).その結果,両文型の間にあったもともとの文法性の判断値の差が消失した.しかし,場独立的な被験者では係留文の効果が出なかった. [実験3] 場依存的な被験者について,実験1と2で使用した文型に含まれていた「主観性」を取り除いた文型で実験した.target文には従属節の名詞句を抽出した文型と従属節の副詞句を抽出した文型を作った.係留文には上記の主観文と主節の副詞句を前置した文型を使用した.その結果,副詞句前置文が係留文のときいずれのtarget文もより非文法的であると判断された(対比効果).この対比効果は主観文を係留文とし,副詞句抽出文をtarget文にした場合にも得られた. [結論] 下接の条件を逸脱した文の文法性の判断にも係留効果は生じる.特に,同化効果を確認した実験2はCowart(1994)に対する反論となる.
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