研究概要 |
1, 本研究は,聴覚障害児の手話習得の過程を明らかにし,それを基に聴覚障害児が手話を習得するための援助プログラムの作成,実施及び評価を行うことを目的とした。そのために,まず,昨年度に引き続き,両親がろうの聴覚障害幼児の手話コミュニケーションの発達過程を,語用論的な観点から検討した。具体的には,両親がろうの1名の聴覚障害幼児を,家庭内での自由遊び場面でほぼ1か月に1回(2時間)程度,縦断的に観察・記録した。そして,特に母子間の絵本読み場面を中心に取り上げ,絵本をもとにした会話の生成,展開に関して詳細な分析を行った。その結果,母親が子どもの注意をいかにコントロールするか,また手話によりどのように働きかけるかに関して,手話特有のいくつかのストラテジーが存在することが明らかになった。 2, 昨年度からの手話習得過程に関する分析をもとに,両親とも健聴の聴覚障害児が手話を習得するための援助プログラムの試作し,その実施と評価を行った。具体的には,絵本をもとに手話による語りを収めたビデオ教材を作成し,聴覚障害幼児の家庭に配布,その後のアンケートによりその評価を行った。教材の作成にあっては,ストックホルム大学手話研究所インガー・アールグレン博士,スウェーデン障害児研究所(SIH)グニラ・クリスターソン氏からのアドバイスを受けた。ビデオ教材は3本作成した(取り上げた絵本は6冊)。これらをAろう学校幼稚部に在籍する家庭(およそ30家庭)に1ケ月に1本ずつ配布した。配布のおよそ1週間後に,教材の利用状況,子どもめ反応,その他,問題点やニーズなどに関してアンケート調査した.概ねビデオ教材がよく利用されていた。絵本とビデオを同時に見たり,また,母親の手話学習にも利用されていることがわかった。手話の語りを音声や日本語の獲得とどのように関連付けるかが今後の問題として残った。
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