研究概要 |
些細なミスが大きな損失・損害につながりやすい状況では,ミスを犯さないように強迫的な防衛行動が強いられ,ストレスを生じさせることになる.脅迫症状は,こうしたストレスを中和するために生じていると考えられており,その状況において個人が感じる責任の程度に関与しているといわれている. 平成11年度は,個人的責任性(個人が状況に対して感じる責任)が強迫症状の生起に及ぼす影響について,調査と実験による検討を行った.調査においては,日常生活のストレスと個人的責任性評価が,強迫症状の生起に及ぼす影響について,共分散構造分析を用いて検討した.その結果,「影響性」が高く「深刻性」の高い状況で,日常的なストレスが個人的責任性を高め,強迫症状の生起に関与していることがわかった。 実験的検討においては,日常的な生活場面を実験室内に再現し,強迫行動の生起に及ぼす個人的責任性の影響を検討した.被験者には,個人的責任性尺度を用いて,高責任傾向者と低責任傾向者の2群を用い,カード分類課題と戸締まり課題を行わせた.また,被験者には他の被験者群と比較すると教示し,課題失敗の許容可能性により,状況における責任性を操作した.得られた結果をまとめると,以下の4点となる. (1)強迫症状の一つである侵入的思考は,個人特性としての責任傾向に影響されやすい. (2)確認強迫行為は,状況における責任の程度に影響されやすい. (3)個人特性としての責任傾向が強くなると,侵入的思考が確認行為を生起をさせる. (4)(3)において生じた確認強迫行為は,不安を低減する. このように,責任性の高さが強迫症状を生起させ,その結果として不安を低減するという中和作用が生じていることが,実験的に確認されたといえる.
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