研究概要 |
2年間の研究成果は、以下の通りであった: 1. 「甘え」と「依存」の差異に関する量的分析:一般にほぼ同様のように考えられがちな「甘え」と「依存」のもつ語の意味やニュアンスの違いについて量的に分析を行った.その結果,「甘え」はポジティブ・ネガティブな側面をもつものと考えられがちであるのに対して,「依存」はネガティブなものと考えられがちであった.また望ましさ評定も類似した結果を示した. 2. 尺度構成:Kato(1995)で提出された「甘え」の内的作業モデルおよび一般的対人関係に関する内的作業モデルの関係,およびそれぞれの構成物であると仮定される甘え観,自己観,他者観,関係観の関係を理論化した.次にそれらの今後の研究に不可欠な測定尺度を開発した.またこれらの尺度と幼児期・児童期・現在の認知される母子関係との関係もあわせて検討した. 3. 甘えルールの分析: 本研究では,Kato(1994/5)の提案した「甘え行動・交流の内的作業モデル」の内実を分析するために,甘え交流に関するルールの素朴概念の分析を行った.その際,「甘えるべきでない甘え」「甘えてもよい甘え」について状況,対象,内容,程度について自由記述を,大学生・成人に求め,その内容分析を行った. 4. 土居の仮説の検証の試み:土居(1958)は,症例研究から神経質傾向の本態は「甘えたいのに甘えられない」という心性であるという仮説を提出している.本研究ではこの仮説の妥当性の検証を大学生を用いて試みた.神経質傾向と「甘えたいのに甘えられない」心性が現れると仮定された甘えに対する抵抗感の関係を調べた.その結果,神経症傾向高群と健常者では,甘えへの抵抗感は高い.意外にも,神経症傾向のある群が,もっとも抵抗感が低かった.更に,甘え観・自己観・他者観・関係観および神経症傾向の抵抗感の相対的説明率も検討した.
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