研究概要 |
本研究は、初期の語彙獲得の発達変動因の解明を目的としている。中間報告(島根女子短期大学紀要第37号、50-70、1999年)により、18か月児の利き手の出現が言語獲得と有意に相関することが明らかになったため、その後被験児の月齢を追加し、最終的に18か月児・30か月児・41か月児各50名、計150名の横断研究と、他の37名による18か月から24か月までの追跡研究を構成して、以下のような研究結果を得た。この研究の成果は、International Conference on Infant Studies(Brighton,UK,18 July,2000)で報告する。 (1)18か月児24か月児の語彙獲得と出生状況、利き手の出現-18か月児の言語発達得点と正の相関を示したのは観察測定されて利き手指数であった。獲得語彙数・体の部位の指示数においても有意であった。18か月児の利き手指数は分娩時間と負の相関をしめし、遅延分娩等の出産状況と左利きの強さ、さらに語彙獲得の遅れが発達的に因果関係をもつことが示唆された。18ヶ月から24ヶ月までの追跡群においても、帝王切開などの異常分娩と、18ヶ月の親質問により測定された利き手指数が負の相関を示した。さらに18ヶ月の利き手指数と追跡後の24ヶ月の助詞獲得数が有意に正の相関を示し、18ヶ月の利き手出現により24ヶ月の構文を読む言語発達が予測可能であることを示した。30ヶ月以降は、ほぼ全体が3語文以上の構文段階に達していた。これらの結果、少なくとも24ヶ月までの言語発達は出生状況・利き手の出現の2要因により変動することがわかった。 (2)遺伝要因と子どもの語彙獲得の関係-18ヶ月〜24ヶ月の言語発達、利き手の出現、出生状況と重複する関係を示したものは親あるいはきょうだい(第1度近親)の利き手であった。18ヶ月において親の左あるいは両利き手と発達の社会領域得点は負の相関を示し、24ヶ月の第1近親の左・両利き手と言語発達得点・助詞獲得が負の相関をしめした。30ヶ月児の観察された利き手指数と第1度近親の利き手が有意な正の相関を示した。これらの結果は、24ヶ月までの語彙獲得の背景に、利き手と脳のラティラリティの遺伝的出現という発達変動因が潜在することを示している。
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